巻き込まれ力

「巻き込み力」というと、どこかのビジネス書のタイトルで出て来そうな言葉ですね。

でも在宅医療では、「巻き込まれ力」は、「巻き込み力」と同等、もしくはそれ以上に必要なのではないかと思っていて、今回はその話をしたいと思います。

 

 

医療従事者の悪い癖(くせ)

私たち医療従事者は医療の専門家です。

ですから、沢山の患者さんや御家族に出会い、いろんな病気の方と関わってきていて、経験も知識も豊富です。


新たに在宅療養をはじめられる患者さんや御家族が、子どもだとしたら、私たちは親くらいに知識と経験の差をもっています。

そうすると、患者さんや御家族に対して、ついつい先回りして、「ああした方がいい」「こうした方がいい」と助言をしてしまうことがあります。

まるで親が、子どもが失敗したり怪我したりしないように、口やかましく助言をするかのように…

そして、助言通りにいかないと、やきもきしてしまいます。

確かに、専門家として情報を与え、助言をするのは当然のことだと思います。

しかし、逆の立場からしたら、「そんなこと言われても…今はわからない…」と思われることも多いのではないかと思っています。

 

 

敢えて巻き込まれる

先ほどは、親子に例えましたが、私も本当に、これは子育てと同じだと思っています。

人は失敗や成功を繰り返しながら、自分で経験して、学んでいく生き物だと思うのです。

ですから、私は、患者さんや御家族にも、思うようにやってみて頂いて、そこから気づきや学びを得ていってもらえば、それで良いのではないかと思っています。

そうやって、失敗も成功も、苦楽の体験を共にすることで、患者さんや御家族も成長していきますし、私たちとの信頼関係も強くなっていくと思うのです。

要は、こちら側に、そういった失敗や無駄を受け入れる覚悟があるかどうかではないかと思うのです。

もちろん、即、命に関わるような重大な事に関しては、はっきりと強くいうことも必要です。本当に、ここは子育てと同じなんです。

 

 

ともに悩む

何か決断をしなければならないとき、そばに居て、ともに悩むこともまた、「巻き込まれ力」と言えます。

在宅医療は、正解のない医療です。

治すことが出来ない病気、慢性の病気が主な対象ですから、「病気を治す」というわかりやすい正解がない世界です。

だとしたら、正解はどこにあるのか?

それは、私たち医療従事者の中にあるのではなく、患者さんの中や、患者さんと御家族の関わりの中にこそあるのです。

個人の価値観、死生観、生きてきた歴史、好み、人間関係の中からしか、正解は出てきません。
そして、悩んで出した答えは、全てが正解です。

それが、どんな棘(いばら)の道であろうとも、どんな非合理な道であろうとも、その人にとっては正解なんです。

だとしたら、その道をともに歩むこと以外、私たちにとっての正解もないのではないでしょうか。

 

 

覚悟

患者さんや御家族に巻き込まれるということは、自分の価値観とは違う価値観に巻き込まれ、そしてその結果に対する責任を一緒に負っていくことになります。

そのために、本来ならドタバタとしなくていい場面でも、ドタバタするかもしれません。

不安になったり、悲しんだり、悩んだりしなくて良い場面でも、一緒になって不安になったり、悲しんだり、悩んだりすることでしょう。

覚悟が必要です。

だからこそ、体調が良くなったとき、うまくいったとき、納得のいく看取りが出来たときの達成感や喜びを、ともに分かちあうことができると思うのです。

そして、この苦難と感動の物語は、二つとして同じ物語はありません。

これこそが、在宅医療の大きな醍醐味だと思います。